最近読んだ「JTのM&A 日本企業が世界企業に飛躍する教科書」新貝 康司 (著)を紹介します。
読書前の期待値
現在、私は事業会社でM&A(を含む資本取引全般)を推進する部署にいます。
著者の新貝 康司さんは、JTの副社長兼CFOとして、英ギャラハー社買収とPMI(統合)の陣頭指揮を執った人です。
タバコ産業という斜陽産業の中にあっても、JTは過去に幾度となく海外企業の買収・統合を成功させており、日本を代表する名M&Aプレイヤー企業であることは間違いないと思います。また、世界本社であるJT International(ジュネーブ)を中心としたグローバルな経営体制など、日本企業としては見習うべき点が多いと思っており、そうしたJTにおけるM&Aのベストプラクティスを吸収したい、という目的でこの本を手に取りました。
本の構成
- 第一部 世界で戦う
- 一章 JT海外たばこ事業
- 二章 適切なガバナンスを前提とした任せる経営
- 三章 JTインターナショナルの経営
- 四章 なぜM&Aを選択したのか
- 五章 進化するM&A
- 六章 ギャラハー買収
- 第二部 新CFO論
- 七章 門外漢がCFOになるまで
- 八章 CFOのミッション
- 九章 CFOはチェンジリーダー
読書後の感想
プラス点
- 第一章~三章ではあまりM&Aに触れられず、JTの企業概要説明といった内容で、JTのグローバル経営体制についてよく理解できた。(日本企業の中ではかなり珍しいガバナンス体制をとっている点が興味深かった。)
- 四章~六章は、ギャラハー買収など本題のM&Aについて、期待通りの内容だった。素直に読み物としても面白いし、戦略構築→買収実行(エクゼキューション)→統合作業と、JTが一連の流れをどのように行ったのかよく分かった。M&Aの勘所なども書いてあり、たまに手にとって確認したい内容である。
マイナス点
- てっきり全編がM&Aに関する本だと思って購入したが、M&Aに関する部分は第一部の3/5程度のみ。私自身あまりCFOという職種(第二部)に興味はないので、そこが少し残念であった。
- 著者は京都大学院卒卒業、米国名門ビジネススクールのMBA修了、米国での長年の駐在経験、とスペック的には超エリートであり、自分の姿とすり合わせて読むにはややハードルが高かったかなと思います。
- あまりフィナンシャルアドバイザリー(投資銀行、法律事務所、会計事務所)との絡みが書かれていなかったように思う。買収を成功させるためには、買収先企業や内部組織だけでなく、FAなど外部のパーティーとの協働も重要だと思うが、そこの記述があまりに少なかったのは残念。
こんな方におススメ
- M&A業務(特に、事業会社における)に興味がある方。
- M&Aのプロセス、企業価値評価、デューデリジェンスに関するテクニカルな本はたくさんありますが、このように実際に大型のクロスボーダー買収案件を行った人の本は珍しいと思う。テクニカル本には載っていない、買収後の統合に必要な勘所などが記載されており参考になった。
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